「3Dプリントされた松尾芭蕉の俳句が、水の中に浮かび上がる…?」そう聞いてもあまり想像がつきませんね。実はこれ、今年5月にご紹介した3Dプリンタ製シャドーアートの創り手でもあるスイス人の2人組「デールザック&スーキー」がデザインしたアート作品。どうやって水の中に文字を映し出すの?松尾芭蕉の俳句との関係は?など、不思議なアートのからくりを取材しました。
「古池や蛙飛びこむ水の音」―松尾芭蕉
あまりにも有名なこの松尾芭蕉の句、実は国際的にも知られています。この句の英語訳として広く行き渡っているのは「Old pond — a frog jumped in — sound of water」。この俳句をテーマにして生まれたのが、デールザック&スーキーの3Dプリントアートです。
アート作品と言っても一見何の変哲もないメッシュ状の板。これはi.materialiseを通じてポリアミドで3Dプリントされた板なのですが、そのままでは何が特別なのかよくわかりません。初めてこの作品と芭蕉の俳句との関係が明らかになるのは、この板を水に浮かべた瞬間。
水に浮かんだポリアミドの板を通じて水底に光が差し込むと「water」の文字を映し出します。板をひっくり返すと、水底にはまた違う文字が。これらの文字を全てつなげると、芭蕉の俳句が英語で読めるという訳です。その全容はビデオでご覧いただけます。
このような仕掛けをどうやって3Dプリントで表現したのか気になりますよね。その答えをデールザック&スーキーに聞いてみました。
「京都の寂光院を訪ねて、その池に浮かぶアメンボを見ているときにこの仕掛けを思いついたんだ。アメンボは水面を進むとき、水面にごく小さな『へこみ』をつくる。そうすると水面のへこみが影の点となって水底に表れるよね。そのとき水底の影はアメンボの体よりもより鮮明に見えるから、アメンボの体は水面でほぼ見えなくなってしまう。
この作品も同じ現象をコントロールされた環境で再現している。3Dプリントされたメッシュ状のたわみの高さが少しずつ違うから、板全体を水に浮かべると水面に接して水底に影をつくる部分と水面に接しない部分がでてきて、光の入り方をコントロールできるんだ。」
私たちが想像もしなかった3Dプリントの使い方でいつも驚かせてくれるデールザック&スーキー。現在はこの作品をさらに進化させるべく、実験を進めているのだとか。「今実験しているのは透明樹脂やラバーライクを使ったバージョン。この素材なら、水面の板をより透明に近づけられると考えているよ。」
3Dプリントしたアートについてもっと知りたい方は、牛乳と透明樹脂のパネルを使った彼らの前回作品もご覧ください。オリジナル作品を製作しているアーティストの方は、次回作には3Dプリントを活用してみては?